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アメ村放送倶楽部 vol.14 ENDRUN

2021.08.14

アメ村放送倶楽部 vol.14
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ゲスト : ENDRUN
インタビュアー : Seiji Horiguchi
※2020年10月9日のインタビュー。


Seiji : 本日で第14回目のアメ村放送倶楽部。ゲストはビートメイカーのENDRUNさんです!

ENDRUN : 宜しくお願いします。

1, キャリアスタートから今の立ち位置に至るまで。

Seiji : まずはENDRUNさんのプロフィールから紹介させていただきます。
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Seiji : 前回ロングインタビューをさせていただいた時は、とある団地のスタジオにお邪魔してビートを作り始めた時のことなどを中心に話をうかがったんですが、今回はビートメイクを始めて今の立ち位置に至るまでの経緯を、まずはお聞きしたいです。どのようにしてビートのスタイルを築き上げ、どのようにしてアーティストとしての認知を広められたのかが気になります。
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ENDRUN : そうですね。そこまでSNSが普及してなかったので、まずはデモのCDを作って会った人に渡すというアナログなやり方からスタートしました。公式にリリースしている音源がない限り、聴いてもらえるのはデモCDしかないんでね。で、現場で動いてた時はその場にいる人たちとリンクしていくんですけど、そこから離れると一定の人としか繋がってない状態になるんですね。「誰かと」っていうよりも一人でやっていくスタンスになっていくというか。僕はやればやるほど一人で完結するようになりました。そういう人の方が多いと思いますけどね。

Seiji : ビートを作っていく中で好みだったりスタイルが定まっていく感覚はありましたか?

ENDRUN : いや、逆に広がっていった感じですね。「なんでも試して作ってみる」というのを大事にしていて。それと、その時に聴いてる音楽だったり自分がいる環境が反映されやすいと思いますね。例えば00年代はHIPHOP以外の音楽ジャンルがクロスオーバーしてるような現場でDJすることが多かったんですよ。ブレイクビーツとかダブステップとか。なのでその時に作ったビートは今とはちょっと雰囲気が違います。アブストラクトな感じというか。2010年代以降はHIP HOPの現場がメインになってきましたけどね。

Seiji : 20代前半の頃なんかは、ビートを作る頻度というのはどのくらいだったんですか?

ENDRUN : そうですね。今から15,6年前になるんですが、その頃は古いMPCを使っていたんですけど、PCに比べて性能がそこまで良くないのでネタをチョップしたりしてビートを作る準備が整うまでに1時間くらいかかるんです。でもここがかなり大事で、料理でいうと野菜を切って下準備する段階ですね。逆にそれが終わってビートを組むところからは早いんですけど。そうやって20代の頃は色々試しながら毎日作りまくってました。2010年以降はPCメインになってチョップがサクサクできるようになったのでビートを作るペースは上がって、特にABLETONの「PUSH」という機材をゲトってからは変わりましたね。それまで時間がかかって面倒だったことが省略されるんですよ。PUSHをゲトってからは年間200くらいのプロジェクトを作ってます。昨日も7個くらい組んでました。

Seiji : 早い!1日でそんなにできるんですか!

ENDRUN : 時間とネタとアイデアさえあればすぐできますよ。でも作り出した時は完成まではいかずにループだけ作るようにしています。絵でいうとアイデアスケッチをざっと描いてみるみたいなイメージですね。その中で良いと思ったループを商品にしていくかどうかを考えて肉付けする作業に移ります。そこで段々クオリティが上がっていったやつがストックとして残っていきます。でも昨日組んだループは割と全部良かったです。基本的にサンプリングして作る時はチョップしてみないと分からないですね。その日の自分のコンディションだったりひらめきだったりに左右されると思います。

Seiji : 一つのビートを作るのにどれくらい時間がかかるんですか?

ENDRUN : 基本のループを組むのは10分くらいでできるんですけど、細かいところを調整していく時間も入れると…1時間くらいですかね。

Seiji : 早い!! 凄まじいスピードですね。「細かいところ」というのは音の展開を作る作業でしょうか?

ENDRUN : そうすね。そういう展開とか微調整も1時間あればしっかりできるかな。もちろんそこから更に音源としてリリースできる形になるまでにもっと色々ブラッシュアップしますけどね。

Seiji : なるほど。クラブでデモCDを渡していた時期の話が出ましたが、それに対して近年の配信メディアはいかがですか?「これはプロモーションに役立った」という媒体はありますか?

ENDRUN : Apple MusicとかSpotifyに関してはここ2年くらいでかなり広まった感じはあります。しかも何人聴いてるとか何回聴いてもらったとかの具体的な数字を見ることができる利点がありますね。CDは、買った人がそのあとどれくらい聴いてくれてるか分からないじゃないですか。買って終わりの人もいるやろし。ただそうやって広がりやすくなったとは思うんですけど、逆に「何回も聞いてもらう」という観点からいうとハードルは上がったと思います。音楽の消費量が半端なく多くなって、リスナーは1枚のアルバムを何回も聴くよりも、いろんな曲をちょっとずつ聴くようになったので。でもまあCDで売ってた時は主なマーケットって日本国内だったんですけど、配信になると海外にも簡単に投げれるので、広がりという点ではうまくいってると思いますね。

Seiji : メリットもデメリットも両方あると。

ENDRUN : そうすね。時代の流れなので仕方ない部分はありますけどね。基本的に自分のリスナーでいうと日本と海外がだいたい半々って感じなので未知の可能性は広がったと思うので、そっちも意識しつつアナログ的な意識も残そうと思ってますね。例えばストリーミングも何かの不具合でネットが使えなかったりサービスが止まったりしてしまうと一切聴いてもらえなくなるので。フィジカルだったり「人と人」っていうのも大事にしていきたいなとは思いますね。

2, セッションアルバム『SOUR HOUR』『HEAT』

Seiji : それから最近ではENDRUNさんの2つの新しいアルバムがFRESHにも届いています。ENDRUN&Yotaro『SOUR HOUR』そしてENDRUN&O.D.S『HEAT』。もちろん自分も両方とも拝聴したんですが、一緒に作るビートメイカーが変わるだけでこんなにも変わるのかと思うほどガラッと雰囲気が変わっていて比較しながら聴くのも楽しいです。
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ENDRUN : 基本的に誰かとインストのアルバムを作るときは、僕のスタジオに来てもらって僕の機材で作ってもらってるんですよ。先に友達に作ってもらって、そこから自分がアレンジを加えていく。だから例えばYotaroと作ってるアルバムもセッションというより僕の機材でYotaroが作ったビートを、僕が更に広げていく作業なんです。だからドラムはほとんどYotaroが組んでて。Yotaroの感じやけどベースラインは僕がやってる、とかが多いですね。アレンジとかMIXに関しては全部僕がやってるので、Yotaroが組んだビートを僕が仕上げたっていうイメージです。セッションをするゲストアーティストに僕のフィルターを通してビートを作ってもらってるイメージです。

Seiji : そうやってアーティスト同士の色が混ざっている感じを探すのもセッションアルバムの楽しいところですね。YotaroさんとO.D.Sさんと作成するなかで「こういうところが違う」ということはありましたか?

ENDRUN : まずYotaroはエレクトリック・ピアノの音が好きなので、浮遊感があってメロウな音が多かったですね。その中でも僕とフィールしたサウンドを見つけて一曲ずつ仕上げました。なかには、前半がYotaroが組んだドラムで、後半に僕が後から同じネタで組み直したビートを繋げたトラックとかもあって。「展開が微妙に変わってるやつは僕が組んだのとミックスしてますね。

Seiji : さすがにそこまでは気付けなかったです…!

ENDRUN : いや、たぶん僕しかわからないと思いますよ!(笑) それからO.D.Sはアニキが所属しているSTEPAK TAKRAWってアフロバンドのドラムをやってるのもあって、ドラムのタイミングに関してはめっちゃ研究してますね。O.D.Sのドラムのグルーブってすごいんですよ。あとファンクネスな黒いメロディを足すのが上手なのでそういう特徴が出ているかもしれないです。「このシンセはO.D.Sやな」ってわかる人もいるかも。

Seiji : でも基本的な作業としてはYotaroさんもO.D.SさんもENDRUNさんのスタジオに行って作業されていたんですね。

ENDRUN : そうですね。スタジオに遊びに来てもらった時に組んだビートを3,4年かけてストックしていたんです。最終15,6曲くらいある中から選んで、ワンループしかないビートも展開を作ってブラッシュアップしていく感じですね。いろんな人とビート作る中で思ったのは、自分はベースラインが特に個性が出せると思いました。もしバンドやったら自分はベースかなっていうくらい。逆にドラムはあんまり得意じゃないですね。ドラムだけ他の人にやってもらってベースを自分が弾くパターンも多いかもしれないです。

Seiji : 『SOUR HOUR』や『HEAT』などインストのアルバムを制作するなかで、全体のテーマだったりアルバムや曲のタイトルはどの段階で決めるんですか?

ENDRUN : インストのテーマとか名前に関しては基本的に後付けですね。元々ビートができた時のタイトルはあるんですけど、一回それをなくして新しくつけます。『SOUR HOUR』の場合は、緑にちなんだ名前をつけましたね。銘柄だったり。O.D.Sとの『HEAT』は全部鉄とか、その加工に関する意味になってます。例えば1曲目の『No Rust』って曲は「錆びない」って意味だったり。そういう鉄とか工具についての本を読んでO.D.Sが考えてくれました。

Seiji : マニアックな本ですね!(笑)

ENDRUN : 二人で鉄をぶっ叩いて作品を作り上げたっていうイメージですね。板金みたいな。

Seiji : なるほど。ジャケのデザインにも納得です。

3, 日本のビートメイカーについて

Seiji : 以前、FNMNLのメールインタビューで「日本のビートメイカーはみんなかっこいい」という内容を書かれていたことにとても共感しました。さんざん海外のビートを掘った後に自分の好きな日本のビートメイカーのビートを聴くと、なんか安心するというか「やっぱかっこいい...」となります。

特に誰とかはないけど、日本人のビート皆めっちゃやばいから、新しい曲聴いたら普通に喰らいます。
国内の色んな世代のラッパーとビートメイカーのコラボがもっとあったら聴きたいですね。


Seiji : ENDRUNさん的に「日本のビートメイカーは海外と比べてこういうところが違う」というポイントってあったりしますか?

ENDRUN : あまりそういうのを気にした事はないですが、傾向として日本人は無機質だったりバキバキであまりメロディがないようなサウンドを作る人はあまりいないかもしれないですね。あと昔から日本人で海外に向けて攻めてる人はかっこいいなって思います。DJ KRUSHさん、MITSU THE BEATSさん、Buda君。そういう先駆者の人もいて僕らの世代もいて。逆に若い人らの事はあまり知らないですけど福井のBallhead君とか、関西だったらDhrma(ダーマ)もやばいですね。最近一緒に作ったりしてるんですけどアイデアがキレてて面白いです。

Seiji : 確かにDhrma君は、かなり前からブーンバップだけでなく四つ打ちのビートも積極的に作ったりしていますね。

ENDRUN : そうですね。色々試行錯誤して自分だけの技みたいなのを持ってるんだと思います。あとは会ったことはないですけどSTEEEZOって人とかは「OP-1」っていうシンセを何台も繋げて作ってるんですけど、その人もヤバいと思いました。でもあとは自分の友達がヤバい人多いですね。福岡のDJ GQとかJJJ、NY在住のScratch NiceGradis Niceとか。

Seiji : 2020年は日本のビートメイカーによるアルバムが豊作な年でしたね。全部チェックしきれないほど多くの作品が出ています。

ENDRUN : そうなると、一曲聴いてもらうだけでも一期一会やなって思いますね。人生の中の何分間かを曲を聴くことに捧げてくれてるだけでもすごい出会いなので。韓国のダンサーとかもHONGOUさんがショーに使ってくれた僕のビートをチェックして踊ってくれたりしていますね。ありがたいです。

Seiji : ビートは言語の壁も超えたコミュニケーションツールですよね。最近はビート作りを始めるダンサーも多いんですが、これからビートメイクをやりたいと思っている人に対して「ビートを作るうえでこれは大事」という要素をあげるとするなら何でしょう?

ENDRUN : ラップもダンスも一緒だと思いますが、基本的に住んでる街とか食べてる物とか、その人のライフスタイルがビートにも出ると思います。だから人間として修行するしかないと思いますね。今はPCがあるから、ソフトの使い方さえ分かれば器用な人は良い感じのビートを作れるんですけど、そこからクオリティを上げていくには修行の時間が必要ですね。ただダンスとかラップと比べて違うのはデスクワークというところです。計算とか数字で成り立ってる部分が大きいので理系の頭がないと難しいかもしれないですね。そもそもPCの使い方も分かっとかないとあかんし。その前提の部分はクリアしたうえでその人のライフを磨いていくのが、良いビートを作るのに必要なことだと思います。

Seiji : 知識を蓄えて、経験を経ていかないといけないんですね。

ENDRUN : もちろん、何もわからない時に初期衝動のバイブスで作ったビートもぐっとくるものがあったりしますけどね。やればやるほど経験とか知識はつくんですけど、頭も硬くなっていくんです。ここは始めたての人に勝てない部分ですね。ダンスでも初心者の人がありえへんムーブかますとかあるでしょ?(笑)

Seiji : 確かに!人の心に残るムーブが生まれる時もあります。ちなみにビートメイクに行き詰まった時ってどう対処されていますか?

ENDRUN : 自分は体を動かすことですね。やっぱりずっと座ってずっと作業してると、景色も変わらないし頭固まってくるんですよ。フレッシュなアイデアが出なかったり集中がもたなかったり。体動かして違う景色を見るのがずっとフレッシュをキープする一つの方法だと思います。今のところスケボーとバスケが一番頭をフレッシュにできます。

Seiji : ありがとうございます。今後の作品も楽しみにしています。というわけでお時間になりました。本日のゲストはビートメイカーのENDRUNさんでした!

ENDRUN : ありがとうございました~。

[筆者あとがき]
彼には2018年のFRESHインタビュー以降も何度かインタビューをさせてもらっているのだが、いつも一貫して先を見据えている姿が印象的だ。僕はその時にリリースされた最新の音源やPVについて聞くわけだが、彼は次に取り組んでいるプロジェクトやその計画についても惜しみなく話を聞かせてくれる。彼にとって最もフレッシュなのはいつだって現在進行形のプロジェクトなのだ。その新陳代謝の良さこそが進化(深化)に必須の条件なのだろう。まだまだ打っては走る彼の刺激的なビートに身を委ねたい。


インタビュー/文 : Seiji Horiguchi
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